もう1週間以上も前のことだけども、観てきた映画のことについて書きたい。
いつもなら映画の感想は親ブログのほうに書いてきたが、この作品は、こちらのブログで取り上げたほうが相ふさわしい気がする。
「ヒトラー 〜最期の12日間〜」。もったいないことに拡大上映系の映画ではない。私が観に行ったのも単館上映専門の小さな映画館だった。
約2時間半の長い映画だったけれども、身じろぎもせずに映画に釘付けになった。
ヒトラーの専属秘書だった若い女性の視点を主に、ヒトラーの最期とナチス・ドイツの崩壊を描いたドキュメンタリー映画だけれど、必ずしもヒトラーだけを中心に描いているかというと、そうでもない。
私にとって見どころだったのは、生身の人間としてのヒトラーと、明らかにボスがおかしいと気づきながら周囲の高官がどのように振舞うか、そして、何も知らずに犠牲になっていく市民や兵士の悲惨さだ。
「生身の人間ヒトラー」などと書くと、それだけで嫌悪感を催す人もいるかもしれない。
でも、私は思う。
ヒトラーを「独裁者」「狂人」などとカテゴライズして、あたかも自分とは無縁な存在であるかのようにしておくほうが、どんなに楽だろうかと。
ソ連軍に包囲されつつあるベルリンの地下壕で、ソ連軍の圧倒的な兵力と自軍の不利な状況を提示されても、ヒステリックに声を荒げて現実を認められないヒトラーの姿。その一方で、主人公の女性たちには優しい態度を見せたりもする。首都を市街戦の舞台にして「市民が犠牲になろうが関係ない」と言いながら、「政治的遺書」の口述筆記を依頼する場面では、「私は市民を愛し…」といった台詞を口にする。完全に現実と乖離した自分の妄想世界に入り込んでしまっている。
交流分析でいうと、彼のA(大人の自我状態)は全く機能していない。P(親の自我状態)とC(子供の自我状態)からの二重汚染を受けている、という印象だ。早い話が、偏見と思い込みによって理性が理性として働かなくなって、自己矛盾に気づかない状態である。
PとCによってAが二重汚染された自我状態にある人は、それ自体は精神の病でもなんでもない。
そういう状態の人は、(決して多数ではないとしても)どこにいてもおかしくない、と思う。私が関心を持った「生身の人間ヒトラー」は、そういう存在だ。
ヒトラーを取り巻く人々の行動も様々である。彼の「妄想世界」を共有してきた者も、それを利用してきただけの者も、国家という組織の屋台骨が揺らぐ中で、それぞれの自我状態がくっきり表れてくるのが目を引く。裏切る者、殉じる者…。
私は、ベルリンに残って負傷者の治療にあたり、自分自身にも周囲の兵士にも生きることを最優先に振舞った軍医の存在が興味深かったが…(こんな状況でこれだけAが働く人がいたとは!)。
ともかくも、ヒトラーにカリスマを見出して支えてきた取り巻きと、彼の「偏見と妄想の世界」を支持し共有してきた市民がいたからこそ、あの第三帝国は成り立ったのだろう。
そして、最後にはその“カリスマ”に裏切られる市民の姿は悲惨で哀れだ。映画は、そのあたりもくっきり描き出している。
(特にゲッベルスの6人の子供にヒトラー・ユーゲントの少年少女…可哀想だった。ネタバレになるのであまり書けないが「あの男の子」は戦後、心が癒されることがあっただろうか?)
この映画はドイツ国内でも国外でもかなり論争を呼んだそうだ。
「独裁者を美化した映画だ」との評価もあったらしいけど、私にはとてもそうは思えない。
むしろ、「ヒトラー的存在」とそれを支える組織体はあちこちにあると思うのだが、どうだろう?別にオウム真理教のような「破壊的カルト教団」だけではないと思うのだけれど。
振り返って、今の日本はどうだろう?
私がそのような「偏見と妄想の世界」の一員に組み込まれていた時に、私はどう振舞うだろう?
この映画が投げかけてきたテーマは、私にはとても重い。
(この記事は「ヒトラー 〜最期の12日間〜」オフィシャルサイトにTBしました)
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いつもなら映画の感想は親ブログのほうに書いてきたが、この作品は、こちらのブログで取り上げたほうが相ふさわしい気がする。
「ヒトラー 〜最期の12日間〜」。もったいないことに拡大上映系の映画ではない。私が観に行ったのも単館上映専門の小さな映画館だった。
約2時間半の長い映画だったけれども、身じろぎもせずに映画に釘付けになった。
ヒトラーの専属秘書だった若い女性の視点を主に、ヒトラーの最期とナチス・ドイツの崩壊を描いたドキュメンタリー映画だけれど、必ずしもヒトラーだけを中心に描いているかというと、そうでもない。
私にとって見どころだったのは、生身の人間としてのヒトラーと、明らかにボスがおかしいと気づきながら周囲の高官がどのように振舞うか、そして、何も知らずに犠牲になっていく市民や兵士の悲惨さだ。
「生身の人間ヒトラー」などと書くと、それだけで嫌悪感を催す人もいるかもしれない。
でも、私は思う。
ヒトラーを「独裁者」「狂人」などとカテゴライズして、あたかも自分とは無縁な存在であるかのようにしておくほうが、どんなに楽だろうかと。
ソ連軍に包囲されつつあるベルリンの地下壕で、ソ連軍の圧倒的な兵力と自軍の不利な状況を提示されても、ヒステリックに声を荒げて現実を認められないヒトラーの姿。その一方で、主人公の女性たちには優しい態度を見せたりもする。首都を市街戦の舞台にして「市民が犠牲になろうが関係ない」と言いながら、「政治的遺書」の口述筆記を依頼する場面では、「私は市民を愛し…」といった台詞を口にする。完全に現実と乖離した自分の妄想世界に入り込んでしまっている。
交流分析でいうと、彼のA(大人の自我状態)は全く機能していない。P(親の自我状態)とC(子供の自我状態)からの二重汚染を受けている、という印象だ。早い話が、偏見と思い込みによって理性が理性として働かなくなって、自己矛盾に気づかない状態である。
PとCによってAが二重汚染された自我状態にある人は、それ自体は精神の病でもなんでもない。
そういう状態の人は、(決して多数ではないとしても)どこにいてもおかしくない、と思う。私が関心を持った「生身の人間ヒトラー」は、そういう存在だ。
ヒトラーを取り巻く人々の行動も様々である。彼の「妄想世界」を共有してきた者も、それを利用してきただけの者も、国家という組織の屋台骨が揺らぐ中で、それぞれの自我状態がくっきり表れてくるのが目を引く。裏切る者、殉じる者…。
私は、ベルリンに残って負傷者の治療にあたり、自分自身にも周囲の兵士にも生きることを最優先に振舞った軍医の存在が興味深かったが…(こんな状況でこれだけAが働く人がいたとは!)。
ともかくも、ヒトラーにカリスマを見出して支えてきた取り巻きと、彼の「偏見と妄想の世界」を支持し共有してきた市民がいたからこそ、あの第三帝国は成り立ったのだろう。
そして、最後にはその“カリスマ”に裏切られる市民の姿は悲惨で哀れだ。映画は、そのあたりもくっきり描き出している。
(特にゲッベルスの6人の子供にヒトラー・ユーゲントの少年少女…可哀想だった。ネタバレになるのであまり書けないが「あの男の子」は戦後、心が癒されることがあっただろうか?)
この映画はドイツ国内でも国外でもかなり論争を呼んだそうだ。
「独裁者を美化した映画だ」との評価もあったらしいけど、私にはとてもそうは思えない。
むしろ、「ヒトラー的存在」とそれを支える組織体はあちこちにあると思うのだが、どうだろう?別にオウム真理教のような「破壊的カルト教団」だけではないと思うのだけれど。
振り返って、今の日本はどうだろう?
私がそのような「偏見と妄想の世界」の一員に組み込まれていた時に、私はどう振舞うだろう?
この映画が投げかけてきたテーマは、私にはとても重い。
(この記事は「ヒトラー 〜最期の12日間〜」オフィシャルサイトにTBしました)
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この記事へのコメント
初めまして。
私も明日見てこようと思っています。
動機はいたって簡単です。
あの心優しき「ベルリンの天使」を演じたブルノー・ガンターが世界で最も冷酷だと言われているヒトラーをどう演じるのかを見たいからです。
でも感想を読ませていただいて、ちょっと迷っています。
私も明日見てこようと思っています。
動機はいたって簡単です。
あの心優しき「ベルリンの天使」を演じたブルノー・ガンターが世界で最も冷酷だと言われているヒトラーをどう演じるのかを見たいからです。
でも感想を読ませていただいて、ちょっと迷っています。
2005/08/14(日) 23:45 | URL | N.K #-[ 編集]
N.Kさん、はじめまして。
ブルーノ・ガンツ演じるヒトラーは秀逸でしたよ。
重いテーマの映画だけど、是非ご覧下さい^^
今日は日本敗戦60年目の日、ぴったりですね。
ブルーノ・ガンツ演じるヒトラーは秀逸でしたよ。
重いテーマの映画だけど、是非ご覧下さい^^
今日は日本敗戦60年目の日、ぴったりですね。
みのりさん、早速のレス有難うございました。
見てきましたよ。
主演俳優の名前、不確かでした。BRUNO GANZさんでしたね。
う〜〜ん、困りました。
ヒットラーが悪役に見えないんです。妄想にとりつかれた哀れな年老いた指導者。
GANZ氏のイカれた老人ぶりがあまりにも見事で憎み切れないんです。むしろ部下や仲間に次々と裏切られて滅びゆく武士のようで哀れみさえ感じてしまいました。
これはアウシュビッツでの多量のユダヤ人殺戮等々をまだ知らない女性秘書の目線から描かれている所為でしょう。
でもヒットラー夫妻の自殺後がかなり描かれていたのが良かったと思いました。
それにヒットラーの側近やまたその周囲の人間のエピソードもあってその当時のドイツ人の気持ちが多少は理解でしました。
それにしても敵に見苦しい最期を見せたくない、という美学は東西同じなのですね。日本は切腹、あちらは銃殺(schiessenという単語が随分と出てきてました)。
それからあちらはあのような戦火にあっても女性連が需要な役割をしているのに日本の戦国時代を思わせます。
日本の戦時中の閣僚周辺にはGoebbels夫人のような女性はいなかったと思われますから。
ともかくドイツの「滅びの美学」を見たような気がします。
しかしどんなことがあっても戦争はいけません。
少し前に見た『ハウルの動く城』でのハウルの言葉「戦争は敵も味方も人を殺す事においては同じことだ」がまた蘇ったことでした。
見てきましたよ。
主演俳優の名前、不確かでした。BRUNO GANZさんでしたね。
う〜〜ん、困りました。
ヒットラーが悪役に見えないんです。妄想にとりつかれた哀れな年老いた指導者。
GANZ氏のイカれた老人ぶりがあまりにも見事で憎み切れないんです。むしろ部下や仲間に次々と裏切られて滅びゆく武士のようで哀れみさえ感じてしまいました。
これはアウシュビッツでの多量のユダヤ人殺戮等々をまだ知らない女性秘書の目線から描かれている所為でしょう。
でもヒットラー夫妻の自殺後がかなり描かれていたのが良かったと思いました。
それにヒットラーの側近やまたその周囲の人間のエピソードもあってその当時のドイツ人の気持ちが多少は理解でしました。
それにしても敵に見苦しい最期を見せたくない、という美学は東西同じなのですね。日本は切腹、あちらは銃殺(schiessenという単語が随分と出てきてました)。
それからあちらはあのような戦火にあっても女性連が需要な役割をしているのに日本の戦国時代を思わせます。
日本の戦時中の閣僚周辺にはGoebbels夫人のような女性はいなかったと思われますから。
ともかくドイツの「滅びの美学」を見たような気がします。
しかしどんなことがあっても戦争はいけません。
少し前に見た『ハウルの動く城』でのハウルの言葉「戦争は敵も味方も人を殺す事においては同じことだ」がまた蘇ったことでした。
2005/08/15(月) 17:06 | URL | N.k #-[ 編集]
N.Kさんこんにちは。レス遅くなってごめんなさい。
映画のご感想ありがとうございますm(_ _"m)ペコリ
おっしゃるように映画のヒトラーは、憎むべき独裁者というより、哀れな裸の王様という印象でしたね。だからこそなおさら、「ヒトラーという存在」が特殊なものではないことに、怖さを感じます。子を思う母の顔で子ども達を毒殺していくゲッベルス夫人もそうですね。
映画のご感想ありがとうございますm(_ _"m)ペコリ
おっしゃるように映画のヒトラーは、憎むべき独裁者というより、哀れな裸の王様という印象でしたね。だからこそなおさら、「ヒトラーという存在」が特殊なものではないことに、怖さを感じます。子を思う母の顔で子ども達を毒殺していくゲッベルス夫人もそうですね。
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